
【ファンを味方にする】売上が自然と伸びるファンベースマーケティング入門
目次[非表示]
- 1.ファンベースマーケティングとは
- 1.1.ファンマーケティングとの違い
- 2.なぜ今ファンベースが必要か
- 2.1.(1)安定した売り上げが作れる
- 2.2.(2)既存顧客からの売上は費用対効果が高い
- 2.3.(3)成熟市場における差別化の必要性
- 2.4.(4)物価高などの影響による消費者行動の変化
- 2.5.(5)ファンが新規顧客を繋げる
- 3.ファンベースマーケティング成功のためのポイント
- 3.1.(1)ブランド価値自体を高めて共感を強める
- 3.2.(2)商品ストーリーで愛着を湧かせる
- 3.3.(3)企業の評価・評判を上げ信頼を高める
- 3.4.(4)コミュニティを育てる
- 3.5.(5)継続的な改善
- 4.始める前に知っておきたい注意点
- 5.ファンベースマーケティング成功事例
- 5.1.(1)Apple(アップル)
- 5.2.(2)コメダ
- 6.まとめ
ファンベースマーケティングとは
私たちが今ビジネスをする上で「新規顧客をたくさん獲ること」だけが正解とは限りません。
むしろ、あなたのブランドを心から支持してくれる“ファン”を育て、その力を売上に変えていく戦略――それが「ファンベースマーケティング」です。
ファンベースマーケティングとは、ただリピートしてもらうだけの顧客を超えて、ブランドに共感し、愛着を持ち、他人にも薦めたいと思ってくれる人たちを中心に据えたマーケティング手法です。新規顧客獲得とは違い、既存のファンや優良客と共に価値を育み、長期的に売上を安定させることが目的です。
ファンマーケティングとの違い
ファンベースマーケティングとよく似た言葉に「ファンマーケティング」というマーケティング手法があります。よく似た言葉で「ベース」という単語が入っているか入っていないかの違いですが、意味は大きく異なるので注意が必要です。ファンマーケティングはファンをターゲットとして「ファンに購入を促す」ことで、企業が利益を得るためのマーケティング手法です。それに比べて、ファンベースマーケティングはファンの声にできるだけ耳を傾け「ファンの声を反映した商品・サービスづくり」を心掛けるマーケティング手法を意味します。
なぜ今ファンベースが必要か
ファンベースマーケティングは、現在注目を浴びているマーケティング手法です。一体なぜ注目されるようになったのか、要因とされる理由を詳しく解説していきます。
(1)安定した売り上げが作れる
有名なマーケティングの法則に「パレートの法則」があります。パレートの法則とは、全体の成果の8割は、全体を構成する2割の要素が生み出しているという法則です。多くの小売やBtoBに当てはめると、顧客全体のうちの20%のファンが売上全体の80%を支えています。つまり、20%のファンを大切にすることによって、売上全体の80%ほどは安定するという法則です。長期間、商品やサービスを愛用している顧客は、拠出する金額が大きく売上の安定を下支えしています。
安定した売上を維持するためにもファンベースマーケティングの実施が不可欠ともいえます。さらに、ファンの声を大切にすることによって、企業はファンと共に新たな価値を創出できます。
(2)既存顧客からの売上は費用対効果が高い
新規顧客は母数が多いため、新規顧客に向けてアプローチした方が効果が高いと感じます。しかし、ビジネスの世界で広く知られている考え方に「1:5の法則」があります。1:5の法則とは、新規顧客を獲得するコストは既存顧客を維持するコストに比べて5倍かかるという法則です。新規顧客はさまざまなコストをかけて獲得しても離脱率が高い傾向があります。離脱率が高い割に、既存顧客維持に比べて獲得コストが5倍かかってしまうことから、費用対効果が高い既存顧客を大切にするファンベースマーケティングが重要視されています。
(3)成熟市場における差別化の必要性
市場が成熟すると、商品やサービスの差別化は難しくなります。価格や機能だけで競争しても、簡単に真似されてしまうことが多いのが現状です。そんな中で、ブランドに共感してくれるファンは、商品以上にブランドそのものを支持してくれる存在となります。ファンがブランド価値を理解し、自発的に応援してくれることで、競合との差別化につながり、長期的なブランド強化を可能にします。実際、Appleやスターバックスのような企業は、製品の魅力だけでなくブランド体験やコミュニティ形成によって、熱心なファンを獲得しています。
(4)物価高などの影響による消費者行動の変化
物価高の影響で消費者が慎重になる中、広告だけでなく信頼できる情報源の影響力はますます高まっています。SNSや口コミ、レビューによる情報は購買決定に大きく影響し、ファンが自発的に情報を広めることで、企業が発信する広告以上の信頼性を獲得できます。ファンベースマーケティングは、経済的な制約がある中でも、信頼と共感を武器に購買行動を後押しする戦略と言えます。
(5)ファンが新規顧客を繋げる
現在はネットで情報を取捨選択する人が多く、ひと昔前のようにテレビCMやテレビ通販での顧客獲得は難しくなっています。SNSやネットでの情報は、信憑性がなく「気になる」程度に留まってしまうケースも多いでしょう。
しかし、ファンである既存顧客は、良いものを伝えたいという想いから、企業やブランドの良さ、商品やサービスの体験談を家族や友人に語ることによって、自分でも気づかないうちに広告塔になっているケースがよくあります。「○○さんが勧めてくれたから使ってみたい」「おすそ分けされて使ってみたら良かった」など、家族や友人が新たな新規顧客になるのです。
情報も商品も過剰になり過ぎて、何を選んだら分からないという現代においては、身近な人の口コミが効果的であり、新規顧客獲得に繋がるチャンスが広がります。
ファンベースマーケティング成功のためのポイント
ファンベースマーケティングを成功させるために押さえておきたい5つのポイントをご紹介します。
(1)ブランド価値自体を高めて共感を強める
基本的に人は、考え方や価値観が近いと共感したら、企業やブランドに興味を抱いてくれます。顧客がファンになってくれれば、安さ・見た目・流行にとらわれることなく、企業やブランドが大切にしている価値を支持してくれるでしょう。企業やブランドが大切にしている価値を高めるということは、ファンの共感をより強めることにもなります。
企業やブランドが大切にしている価値とは、ファンを大切にするという気持ちの表れでもあります。ファンを優先する姿勢を見せる、ファンの声から生まれた商品であることをアピールする、ファンであることに喜びを得られる商品づくりを行うなど、ファンの熱量を高めて共感を得ることは、企業の価値を高めることにもなるでしょう。
(2)商品ストーリーで愛着を湧かせる
企業は商品やサービスの開発のために、さまざまな試行錯誤を行います。その際にファンが共感しやすいストーリーや愛着が強まるストーリーがあれば、ファンの心をより掴みやすくなります。例えば、商品の背景にあるこだわりや開発秘話などには、ドラマがあります。
さまざまな人の想いが込められて完成するまでのストーリーは共感を得やすいでしょう。ファン目線で改善された商品であれば「ファンを大切にしている」という気持ちが生まれやすくなります。ファンのことを想った開発ストーリー、苦労話、秘話は、ファンの熱量を高めることができ、口コミでの拡散効果も期待できます。
(3)企業の評価・評判を上げ信頼を高める
商品は良いけれど、企業の評価・評判に嫌なイメージがある場合はファンにはなかなかなれません。商品やサービスの提供元である企業の評価・評判は、ファンの信頼・共感を得るためにも重要です。企業の評価・評判を高めるためには、常にファンのために誠実であるかを企業自体が意識し続けなければなりません。
新しい施策を行う際には、「ファンベース」であるかどうかを確認しながら進めていくことが大切です。ファンに開発や製造工程などの細部を見せ、丁寧に紹介することで信頼・共感は得やすくなります。さらに、社員を「最強のファン」にすることも忘れてはいけません。ファン目線で商品やサービスを紹介すれば、熱意・想いが伝わりやすくなります。そのためにも、社内コミュニケーションを強化し、社員に商品やサービスのストーリーや魅力を知ってもらう機会を作ることも大切です。
(4)コミュニティを育てる
ファンベースマーケティングでは、ファン同士がつながるコミュニティを育てることが重要です。SNSや専用フォーラム、オンラインイベントなどを通じて、ファンが互いに交流し、意見を共有できる場を提供すると、ブランドに対する愛着が深まります。また、ユーザー参加型の企画やアンケート、コンテストなどを実施することで、ファン自身がブランドに関わる体験を持ち、主体的に応援してくれるようになります。こうしたコミュニティの活性化は、口コミや拡散力の向上にもつながります。
(5)継続的な改善
ファンとの接点を持つことは、単にコミュニケーションを増やすだけでなく、商品やサービスの改善に活かすことができます。アンケートやレビュー、SNSでのコメントなど、ファンの声を丁寧に収集し、実際の開発やサービス改善に反映することで、ブランドへの信頼がさらに高まります。また、改善の結果をファンに伝えることで、「自分たちの意見が反映された」という共感や愛着を生み、長期的なロイヤルティ向上につながります。
始める前に知っておきたい注意点
(1)表面的なファンづくりだけでは続かない
「とりあえずSNSでキャンペーンを打ってフォロワーを増やす」など、表面的な施策だけでは長期的な成果にはつながりません。本当のファンは、ブランドの価値や理念に共感し、自ら応援してくれる人です。
そのためには、商品やサービスの質を保ちつつ、ストーリーや体験を通じて共感を育むことが不可欠です。
(2)一貫性のなさ・ブランドが迷走することへのリスク
ブランドメッセージや価値観がぶれると、ファンとの信頼関係が崩れてしまいます。
例えば、以前と異なる方向性のキャンペーンを突然打ったり、矛盾したメッセージを発信したりすると、ファンが混乱し離れてしまう可能性があります。ファンベースマーケティングでは、ブランドの理念やトーンを一貫して守ることが重要です。
(3)コミュニケーションのフォローが不足すると逆効果になる
ファンベースマーケティングでは、ファンとの接点を増やすことが重要ですが、コメントや問い合わせなどへの対応が滞ると逆効果になります。たとえば、SNSでコメントがあったのに返信がなかったり、質問に十分に応えられなかったりすると、「応えてくれないブランド」として不信感を持たれてしまうことがあります。ファンはブランドとの双方向のやり取りを期待しているため、常に声に応えるフォローが不可欠です。始めた施策を丁寧に運用し、コミュニケーションを継続することで、信頼関係を築き、ファンのロイヤルティを高めることができます。
ファンベースマーケティング成功事例
ファンをベースに考える、ファンを想うということは分かっていても、具体的にどのような施策を行えば良いのか分からないという方は多いでしょう。こちらでは実際に、ファンベースマーケティングを行い成功した2社の事例をご紹介します。
(1)Apple(アップル)
iPhoneを代表とするデジタル家庭電化製品、オンラインサービスの開発・販売を行うAppleは、日本各地にAppleストアを展開しています。Apple製品は、家電量販店やネット通販などでも購入可能です。しかし、Appleストアの店内は、いつも多くのファンで賑わっています。Apple製品は、デザインや完成度の高さに定評がありますが、店舗も一等地にあり、高級感のある造りになっていてファンの心を高揚させてくれます。
Appleストアでは、実際に端末に触れられるようになっており、操作が分からない場合はスタッフが丁寧にサポートしてくれるため、初心者でも安心して購入できます。また、定期的にワークショップを開催しており、新機能の体験会やおしゃれな写真を撮るためのワークショップで、顧客は新たな価値を見出せます。価格面から新iPhoneを躊躇している顧客も商品の価値と魅力に触れることによって購入を決断するということはよくあるケースです。
新iPhoneを使いこなせるようになれば、新機能を使ったり綺麗に撮影した写真をSNSに投稿したりすることで、家族や友人にアピールしてくれる広告塔にもなってくれます。
(2)コメダ
株式会社コメダが経営する喫茶店チェーンの「コメダ珈琲」では、ファンのコミュニティサイト「さんかく屋根の下」を開設することによってファン同士の交流を促進し、ファンベースマーケティングに成功しています。コメダ珈琲は、ファンサイトを作る前からリピーターやファン作りに熱心で、リピーターが多いチェーン店として一線を画していました。
公式コミュニティサイト「さんかく屋根の下」は、2020年3月31日にオープンしましたが、既存のサイトとは別にファン専用サイトを開設するのは、業界でもあまり例を見ない試みです。「さんかく屋根の下」には「コメ友の部屋」「みんなの声(投票)」「コメダ写真館」などのコンテンツがあり、ファンが投票やコメント、写真を投稿できるようになっています。他の人の投稿を見ることで、自分ではまだ見つけられていない新たな価値や魅力に気づけるという点で好評を得ています。さらに、新商品の紹介や人気商品のおいしさの秘密、コーヒーに関する豆知識、コメダの森体験ツアーやオンライン座談会など、ファンにはたまらない読み応えのある記事やイベントが満載です。ファンと企業がコメダ珈琲を共創し、よりファンとコメダ珈琲の結びつきが強くなっています。
まとめ
ファンベースマーケティングは、ファンとの信頼関係を育むことで、安定した売上とコスト効率の高いマーケティングを実現する戦略です。成熟市場でも競合との差別化や口コミの力を活用できる点が大きな強みです。
ただし、表面的な施策や一貫性のない発信、ファンとのコミュニケーション不足は逆効果になることがあります。まずは、ファンの声に耳を傾け、ブランドの価値や理念を丁寧に伝える小さな取り組みから始めることが大切です。少しずつ信頼を積み重ね、共感を広げることで、長期的に応援してくれるファンを育てることができます。